NPO法人GEWELは2003年の設立以降、ダイバーシティ&インクルージョンを中心に、多くのひとに影響を与えてきました。GEWELと関わったことをきっかけに、新しい何かを起こしてきた「コトおこし」の例を紹介していきます。
File11:竹田綾夏(タケダアヤカ)
株式会社竹田綾夏事務所代表取締役、研修講師、
米国オクラホマ州立大学英語学部元非常勤講師、
Points of You®認定トレーナー
Q: あなたを掛け算で表現すると?
ダイバーシティ x グローバル x 日本女性
私の3つの柱は、20代の頃米国で学んだジェンダー理論やダイバーシティ、移民の祖父から受け継いだグローバルマインド、そして日本女性であることです。
Q: GEWEL との出会い
「逆カルチャーショック」からの再出発
Global Summit of Women (GSW: 世界女性サミット) 2015年サンパウロ大会の報告会で、GEWELのファウンダーや当時の理事の方とお話したことが初めての出会いでした。その頃、私は6年間の米国留学から戻り、日本との環境の違いから起こる「逆カルチャーショック」に悩んでいました。生まれ育ち、慣れ親しんだはずの日本社会に違和感を覚え、キャリアでも「自分は大きな組織の管理職でも何でもない。国際的に活躍するなど雲の上の世界の話」と、どこか卑屈になっていました。「日本人とは、女性リーダーとは、活躍とはかくあるべし」と、心のどこかで思っていたのかもしれません。
GEWELでの活動を通じて、世界の女性リーダーたちと近くで接する機会がありました。雲の上の存在だった彼女たちは、自分の想像よりもはるかに自然体でした。「どの国でどんな組織にいても、自分らしくあってよい」。こうあらねば、という自分の思い込みから脱し、日本で再出発するきっかけを得られたのは人生の大きな糧です。
Q. 具体的な転機やその後に訪れた変化は?
人と人を繋ぎ、自分の言葉で語る
一つ一つの経験の積み重ねが、今の自分の礎です。入会当初、「海外から学べるものは何か、その中で日本に生かせる内容を講師としてお伝えする」ことが自分のテーマでした。しかし、教壇から一方的に教えることに疑問を感じ始めていたのも事実です。活動を通じて、自分のあり方を変えるきっかけを探していました。
2017年に開かれたGSW東京大会では、千人規模の大会を運営するミッションに思い切って参加、米国の大会運営母体と日本側の橋渡しをしました。「私は日本の参加者にどのような価値をお届けできるのか。そして、日本人である自分に何ができるのか」。国や文化を超えた多様なメンバーと試行錯誤する中、米国留学で得た知識を伝えることだけが自分の価値ではない、と考えるようになりました。多様な社会で学んだ機会を持つ人間として、人と人を繋ぐことも大切ではないか、と。
幸い、社会学と英語教育は私の専門分野でした。大会参加者がより多く学べるよう、世界の女性運動や国際会議で使われる英語についてGEWELのメンバー同士でお話しする連続セミナーを主催する機会をいただきました。普段はあまり接点のない、様々な年齢、ご所属の方たちが共に学び、自分の考えを語ることで新たな学びが生まれていくのがわかりました。当時のメンバーとの繋がりは宝であり、企画した自分も多くを学びました。
大会終了後、人と人を繋ぐたけでなく、自分の言葉で自信を持って語ることを新たなテーマとしました。「日本女性、そしてあらゆる属性の人が胸を張って語る」。これは留学先で学び、さらにGEWELの活動を通じて実践してきたことです。2018年には大学生のメンバーとともに、国立女性教育会館(NWEC)のシンポジウムで、国際舞台で自信を持って話すことをテーマにワークショップでお話ししました。終了後、参加者から「自信を持って話すことで、前向きに仕事に取り組めそうです」と感謝の言葉をいただき、自分の新たなテーマへの確信を深めました。
一方、自身を振り返ると、自らのバックグラウンドを自らの言葉で語ることを避けてきたことに気づきました。「移民3世の日本女性として、日本で生きるとは何か」。そして、一歩日本の外に出て、日本を、家族を、そして自分を俯瞰して見えたことは何かについて語ることを決めました。
移民や外国人差別というテーマ自体を扱う事自体が避けられているのが、日本の現状です。それでも実名入りで、自分の言葉で語ったのには、ある出来事があります。留学先の米国で、私は大学院で勉強をしながら、相容れない主張や信条を持った人が集まっている職場で働いていました。宗教やプライバシーに関わる内容なので詳細は書けませんが、決して相容れぬ主張を持つ同僚たちが衝突する事件がありました。彼らには時に許容し、怒り、対立しながらも、相手と語り、自分自身を含めたお互いを知ろうとする姿勢がありました。ぶつかり合いながらも共に生きていく、という姿勢を崩さなかった同僚たちから、私は様々な民族、文化、宗教が混在する国での共生のありかたを学びました。同時に、多様な社会に生きるとは、衝突と対話の終わりのないプロセスで、美しいことばかりではない。到底受け入れられない主張と共にある覚悟が求められる、そう考えるようになりました。
ハフポスト日本版に原稿を掲載いただいた後、多くのの励まし、時に批判が声もありました。自分の言葉で語ることは決して簡単ではなく、ときに軋轢や非難も伴います。それでも、自分は何者かを問うこと、そして言葉にすることは、多様な人たちと生きるために必要ではないでしょうか。
多様な社会で生きることは、決してバラ色ではないと思います。共に生きるために、自分の言葉で語り、相手を知り、自分を知る。時に対立があり、傷つき、傷つけあい、それでも自分たちの言葉で語ることが求められる。衝突と対話の終わりのないプロセスを目にした後、私にはまだまだ知らないことがあると考え、現在の活動に至ります。
Q. 今どんなコトを起こしていますか?
受け身ではなく、ありたい姿に向かって行動する
昨年7月に会社を立ち上げ、ダイバーシティと英語プレゼンテーションに関する研修を行っています。いまだに毎日が試行錯誤ですが、GEWELのメンバーからのアドバイスや叱咤激励があったからこそ今があります。
また、今年は同じ関心を持つ仲間でグループを立ち上げ、事務局長としてイベントを企画しています。ダイバーシティ、グローバル、そして女性というテーマ対し、自分事として、自分の言葉で語る人を増やす、そのための一歩を踏み出していただく事が企画の趣旨です。現状に対して単に不満を述べる、誰かから何かをしてもらう、という受け身の姿勢ではなく、ありたい姿に向かってまず行動することが大切ではないでしょうか。
Q. これから起こしたいコトは?
地道に、長く取り組む
国際会議などの華やかなイベントだけでなく、地道に長く活動を続けることにも意味があると考えます。ダイバーシティを肌で感じていただき、身近なところから自分事として取り組む、そのきっかけをつくる活動をこれからも進めていきます。