ブログ:マックルモアから学ぶ「特権」との向き合い方・・稲葉 哲治

アメリカ・シアトル出身のラッパー、マックルモア(Macklemore)が5月に発表した新曲『HIND’S HALL(ヒンズホール)』は、みなさん聞かれましたでしょうか?

ニューヨークのコロンビア大学でガザ反戦デモを行う学生たちに連帯し、自国のあり方を問う曲。ベトナム反戦運動の舞台にもなった同大学の象徴的建築ハミルトンホールが、ヒンド・ラジャブさんというパレスチナの少女への追悼から「ヒンズホール」と呼ばれだしたことに由来した曲名になっています。収益は全てUNRWA(国際連合パレスチナ難民救済事業機関)に寄付されるとのことです。

明るく楽しいノリノリの曲も数多く発表しているマックルモアですが、折々で社会の不条理さとそれに直面する人のあり方を抉るように問う作品を発表しています。

有名なものは、同性愛をテーマとした『Same Love』でしょう。繊細なピアノの旋律にのせた内向的な歌い方で「小学校3年の時、自分はゲイだって思っていた」という独白から始まるこの曲は、逡巡する思考を吐露しながらも、お互いを尊重し理解できないものへの怖れを乗り越えながら、社会を自分たちで変えていくこと(We have to change us)を呼びかける、とても美しい作品です。ミュージックビデオも感動的なため、5分半程ですが涙もろいかたは泣いちゃうかもしれません。

そんな『Same Love』もぜひ聞いていただきたいのですが、僕が本稿で紹介したい曲は2016年に発表された『White Privilege II』です。

題名の通り「白人特権」(=黒人・有色人種差別)についての曲ですが、この作品を意義深くかつ複雑なものにしている理由として、歌い手のマックルモア自身はマジョリティ側・特権を享受する側である白人(かつ男性)であり、その立場からマイノリティの活動(Black Lives Matter 運動)に加わっている、という背景があります。

曲の中でマックルモアは、マイノリティの活動においては非当事者であり、むしろ抑圧者・簒奪者側に属しているマジョリティの自分自身が活動の輪の中にいていいのか、一緒に抗議の声を上げることが許されるのか、と厳しい自己批判とともに悩みます。

この自己批判や悩みを、みなさんも感じたことはあるでしょうか?

自分自身の特権と、向き合ったことはあるでしょうか?

非当事者として、マイノリティや社会的弱者の方たちと活動するとき、支援を行うとき、自分自身の特権(それはマイノリティや社会的弱者を苦しめている原因だったりします)と向きあわなければ、偽善どころの話しではなく、支援をすることで自分だけが気持ちよくなる、感動ポルノを味わうだけになる、という結末にしかならない、と僕は思います。それは結果として、マイノリティや社会的弱者の方を消費することになり、社会の溝をさらに深めることにもなりかねません。

『White Privilege II』は、Black Lives Matter のデモの中で拾われたものを中心にたくさんの人々のたくさんの声に満ちています。それらは混乱を極めていて収拾がつきません。白人男性であるマックルモアも、自分自身の特権を自覚したからといって、何をすればよいのかわかりません。歴史や理屈を語ってかっこつけてみても、所詮はひたすら、どうすりゃいいんだーーと言っているだけです。

私たちも、きっと同じことになるでしょう。今なっている人も多いでしょう。

でも最後に、Your silence is a luxury, hip-hop is not a luxury、と歌われます。黙っていられることは特権であり、黙っていることはマイノリティや社会的弱者の方を苦しめている社会構造を維持することに加担することになります。沈黙は、贅沢。誰かの犠牲の上にある贅沢です。私の、あなたのあり方・生き方・仕事(マックルモアにとってはその総体がヒップホップ)は、いつまでそんな贅沢を享受し続けるのでしょうか?

黙っていれば、課題の一部。しかし混乱し答えもなく迷いばかりであっても、声を上げて少しでも行動することで、解決の一部になれるかも。D&Iが当たり前となる未来のために、自分自身の特権を問い、沈黙を乗り越えていくことを、みなさんとともに続けていきたいと思っています。

マックルモアのそれぞれの曲は、各音楽配信サービスやYouTubeで聞くことができます。ぜひ聞いて、感想などお聞かせください。

稲葉 哲治

ブログ:天然ダイバーシティな人・・山田 弘

天然ダイバーシティな人ってどんな人?

天然ダイバーシティをGoogle検索してみると、『地球上のさまざまな環境の中で適応進化した多種多様な生物(人類を含む)が、さまざまな形で関わり合いながら暮らしている状態を表す概念である「生物多様性」に倣う言葉』(AIによる概要)と表示されます。

が、ここでは『ダイバーシティに関する知識スコアは低いけど、ダイバーシティにフレンドリーな人』と定義します。

そんな人いるの?と思うかもしれませんが、いるのです。

なぜなら、私がそうだったから。

え〜、それはGEWELのような団体に所属しているからであって、知識スコアの高い人は天然とは言わないでしょう・・・という声が聞こえてきそうです。

確かにGEWELに所属してからは、ダイバーシティに関する知識スコアは上がっているでしょうが、GEWELが設立された当時(同時期)の私の知識スコアはかなり低かった。

そんな私が、こんなことを感じていた。

人がみんな違っているのは当たり前で、それぞれの得意を活かして働けばみんな幸せになれるし、その方がアウトプットのパフォーマンスも上がると本気で思っていた。

なぜそんな風に感じるのかずっと不思議だったが、その謎はストレングスファインダー(クリフトンストレングス)が解いてくれた。

私のストレングスファインダーの1位は、「個別化」の資質。

個別化の資質
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あなたは個別化という資質により、一人ひとりが持つユニークな個性に興味をひかれます。あなたは一人ひとりの何が特別でどこが個性的なのかを覆い隠したくないので、人を一般化したりあるいは類型化することに我慢できません。むしろ、個人個人の違いに注目します。あなたは本能的にそれぞれの人の性格、動機、考え方、関係の築き方を観察しています。あなたはそれぞれの人生における、その人にしかない物語を理解します。あなたはそれぞれの人生における、その人にしかない物語を理解します。この資質によって、あなたはあなたの友達にぴったりの誕生日プレゼントを選んだり、ある人は人前で誉められることを好み別の人はそれを嫌うことを分かったり、一から十まで説明して欲しい人と、一を示せば十を知る人とに合わせて、教え方を調整できたりするのです。あなたは他の人の強みをとても鋭く観察する人なので一人ひとりの最も良いところを引き出すことができます。この個別化という資質は、あなたが生産性の高いチームを作ることにも役立ちます。完璧なチームを作るに当たりチームの「組織構造」や「作業手順」に着目する人もいますが、あなたは優秀なチーム作りの秘訣は、各自が得意なことを充分にできるような強みに基づく配役である、ということを本能的に知っています。1)
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1)さあ、才能(じぶん)に目覚めよう: あなたの5つの強みを見出し、活かす
   マーカス・バッキンガム&ドナルド・O・クリフトン (著), 田口 俊樹 (翻訳)

個別化を上位に持つ人はこのような傾向を秘めた人なので、個別化を上位に持たない人にはちょっと理解が追いつかない・・・

しかし、そんな天然ダイバーシティな人は、ダイバーシティ推進が手詰まりになっている時のゲームチェンジャーになるかも。

山田 弘

ブログ:わかりやすくなったダイバーシティ・・小嶋美代子

ダイバーシティの用語認知度はどれくらいだと思いますか?

2022年のGEWEL調査によると、ダイバーシティを知っていますか?の質問に対して、「意味を説明できる」が14%、「なんとなく理解している」が28%で、認知度は42%。「全く知らない」は20%でした。

ところで、GEWELが設立されたのは20年前(設立経緯はこちらでお読みいただけます)。以降、ダイバーシティに関する様々な調査をしてきました。2008年のGEWEL調査から同じ質問の回答結果をご紹介しましょう。

「ダイバーシティを聞いたことがあり、どういう意味か知っている」は52%、「全く知らない」は16%でした。これを見ると、日本は14年もの間、ノー変化なのか?!と驚かれることでしょう。

これは調査対象の違いが影響しています。2008年の調査ではビジネスパーソンに限定されていましたが、2022年の調査では職業の有無にかかわらず広く一般市民層が対象です。

みなさんの実感ではどうでしょうか?

ダイバーシティという言葉が日常に現れることも増えてきたのではないでしょうか。わたしの住む数千人の小さな町でも、政策として掲げられています。ダイバーシティはすでに組織における戦略としてだけでなく、一般市民の生活に根付いてきたと言えます。インバウンドによって外国人との接点も増えました。一般誌でジェンダー特集も組まれるようになりました。発達障害を含めた日常の困りごとがSNSを通じて伝わるようになりました。最近では昭和時代のアタリマエを令和と比較して茶化すようなドラマもあるそうです。

こうした変化によって、ダイバーシティは徐々に「わかりにくい新しい言葉」から「わかりやすいよく聞く言葉」になってきたものと思われます。

「わかりやすいはわかりにくい」(筑摩書房・鷲田清一著)という本の中に、興味深いことが書かれていました。すべてがわかりやすく整理され完結することは、そのことの終わりを示す、ということだそうです。

だから、わたしたちがわからないこと、矛盾すること、混沌としていることは、持続性を示しているわけで、決して悪いことではないのです。日本ではこう、海外ではどう、などと二項対立で語ることや、理由と結果を述べて結論付けることは、刹那的であり持続的ではないというわけです。矛盾や混沌の複雑な社会の中で、人と対話しながら異なる角度で本質を思索することこそが幸せの追求であり、Wellbeingなのでしょう。わたしが文末に結ぶ言葉はまさしく持続可能性であると言えます。
しらんけど

小嶋美代子

イベントレポート:GEWELオープンフォーラム2022 参加レポート

GEWELオープンフォーラム2022:「ムービーフェス “多様性の追体験”」参加レポート

GEWELオープンフォーラムの運営は、会員だけでなく、学生や社会人のボランティアによって支えられています。今回のGEWELオープンフォーラム2022:「多様性の追体験」は、Marsh McLennan Japan DEI Teamさまのご協力、外務省WAW!ウィークス公式サイトのイベント登録、内閣府男女共同参画局の後援もいただきました。

以下は、当日の対面会場の運営をサポートしてくれた大東文化大学経営学部 ダレン・マクドナルド ゼミの宮﨑 翼さん、野口 朋輝さん、伊藤 真翔さん、オンラインで参加してくれた浅川 大地さん(桜美林大学)、大学生4名の参加レポートとなります。 続きを読む

イベントレポート:GEWELオープンフォーラム2022 アンケート結果

GEWELオープンフォーラム2022:「ムービーフェス “多様性の追体験”」参加者アンケートの結果報告

2022年10月29日(土)15時、GEWELにとって11回目となるオープンフォーラムが開催されました。3年ぶりとなる対面開催は東京都渋谷区の東京ウィメンズプラザにて、また同時にオンラインでも開催されました。

当日は、対面とオンライン、併せて約60名の方にご参加いただきました。そのうち、30名の参加者からアンケートのフィードバックをいただきましたので、集計結果をご報告いたします。
(アンケート集計の協力:大東文化大学 経営学部 ダレン・マクドナルド ゼミ生) 続きを読む

ダイバーシティ認知と理解に関する調査2021年版

 

NPO法人GEWEL(ジュエル)では、2021年、日本全国にお住いの方々を対象に第2回「多様性のある社会づくりのための基礎調査」を実施し、その結果を「ダイバーシティ認知と理解に関する調査 2021年版」集計レポートとしてまとめました。

レポートのダウンロードは以下のフォームよりお申し込みください。入力いただいたメールアドレス宛にダウンロード用のリンクURLをお送りいたします。

NPO法人GEWELでこれまで実施した調査研究については、こちらをご覧ください。

NPO法人GEWELの最新の活動はこちらをご覧ください。
そのほか、FacebookTwitterでも発信しています。フォローいただければ幸いです。

【参加いただいた皆様のお声】GEWELオープンフォーラム2021:ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)のブレークスルー 〜私の組織でもやってみよう〜

2021年9月11日、GEWELにとって10回目となるオープンフォーラムが開催されました。100名を超える多くの参加者の皆様にお越しいただき、zoomを用いたオンラインでのセッションをお届け。6名の特別ゲストからD&Iへの取り組みについてお話しいただきました。

参加いただいた皆様のお声

オープンフォーラムへ参加された皆様に
・参加して感じたこと
・気づいたこと
・考えたこと
など、様々なご感想をいただきました。 続きを読む

【開催レポート① 】GEWELオープンフォーラム2021:ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)のブレークスルー 〜私の組織でもやってみよう〜

2021年9月11日、GEWEL にとって10回目となるオープンフォーラムが開催しました。100名を超える多くの参加者の皆様にお越しいただき、zoom を用いたオンラインでのセッションをお届けしました。
6名の特別ゲストからD&Iへの取り組みについてうかがうことができました。

さらに本イベントではUDトークを活用。UDトークとは、

・「音声認識+音声合成」機能を使って視聴覚障害間コミュニケーション
・「多言語音声認識&翻訳」機能を使って多言語コミュニケーション
・「漢字かな変換や手書き」機能を使って世代間コミュニケーション

といったコミュニケーションの「UD=ユニバーサルデザイン」を支援するためのアプリです。(参照元:https://udtalk.jp)こちらのサービスを用いて、スピーカーの声を文字でもお伝えしました。

またゲストの皆さまには、当日の髪型や服装など見た目についても言及いただくことに。視覚・聴覚特性のある方でも楽しめるようなイベントづくりを心がけました。

セッションではゲストの皆様にスライドをご用意いただき、資料画像と説明の音声とで分かりやすい発表の場になりました。多様性への取り組みがどのように行われているのか、多くの学びを得られるイベントとなりました。 続きを読む

オープンフォーラム参加レポート②:あらためてダイバーシティを考えた2時間半(教育編)

2020年12月6日、今年を締めくくるオープンフォーラムはオンラインでの開催となりました。全国から多くの方にご参加いただき、定員を大幅に超え大盛況となりました。

ダイバーシティと言われて久しい現代社会。
・ダイバーシティの正確な意味を理解しているのか
・なんのためにダイバーシティを推進しているのか
そんな「what」よりも「why」の部分について、「第一部・経営編」「第二部・教育編」という二部構成を、素敵なゲスト陣と考察していきました。
(モデレーター:稲葉 哲治(GEWEL理事))

〇第二部 教育編
ゲスト:
東 ちづる(俳優・一般社団法人Get in touch 代表)

サンドラ・ヘフェリン(コラムニスト)

続いての第二部は俳優・一般社団法人Get in touch 代表の東ちづるさん、コラムニストのサンドラ・ヘフェリンさんをお招きし、教育をテーマにトークを展開していきました。
今を生きる私たちは、次世代の子供たちに何を伝えていくべきなのでしょうか。
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オープンフォーラム参加レポート①:あらためてダイバーシティを考えた2時間半(経営編)

2020年12月6日、今年を締めくくるオープンフォーラムはオンラインでの開催となりました。全国から多くの方にご参加いただき、定員を大幅に超え大盛況となりました。

ダイバーシティと言われて久しい現代社会。
・ダイバーシティの正確な意味を理解しているのか
・なんのためにダイバーシティを推進しているのか
そんな「what」よりも「why」の部分について、「第一部・経営編」「第二部・教育編」という二部構成を、素敵なゲスト陣と考察していきました。
(モデレーター:稲葉 哲治(GEWEL理事))

〇第一部 経営編
ゲスト:
長岡 健(法政大学経営学部経営学科 教授)

宇田川 元一(埼玉大学経済経営系大学院 准教授)

社会構成主義やナラティブアプローチにも造詣の深いお二人。組織から・経営面から・学生の視点から、様々な角度からダイバーシティに切り込んでいただきました。 続きを読む