ある自治体のLGBTQ+啓発事業の一環として、映画上映会の企画・運営を担当しています。昨年は、トランスジェンダーをテーマにした作品「片袖の魚」を上映したので、今年はテーマを変えて、LGBTQ+と“ろう”をテーマにした作品「ジンジャーミルク」を選びました。
監督の今井ミカさんは、第一言語が日本手話のろう者で、2018年には「虹色の朝が来るまで」にて、ろう者の同性カップルを主役とした作品を作っています。地方都市のろう者のコミュニティの狭さや、家族との対立、ろうのLGBTQ+交流会での新しい出会いなどが描かれており、ダブルマイノリティと言われる人々の日常や喜怒哀楽を、映画を通じて追体験することができたので、今井監督の次なる作品に大変期待していました。
その作品、「ジンジャーミルク」は、初見で大きな衝撃を受けました。
日本手話と日本語は、全く別の言語であることを改めて痛感させられました。聴者(聴覚に障害がない人)がある手話を使ったことによってすれ違いが生じますが、詳細を書くとネタバレになっちゃいますので、ここは伏せます。ぜひ作品をご覧ください。日本手話は独特の文法体系を持っていて、日本語とは語順も異なるそうです。お恥ずかしながら私は以前、手話は聴者が話す日本語をハンドサインで翻訳しているものと思い込んでいましたが、それは、日本語対応手話、と呼ばれるものです。日本手話は、第一言語として手話を習得した方が多く使うものだそうです。
映画の主人公でろう者の健斗は「自分はゲイかも」と感じ、聴者であり同性の同級生に思いを寄せます。ろう者と聴者のコミュニケーションや文化の違いが、様々な形で表現され、ハッとさせられる場面が数多く登場します。レズビアンとして様々な情報発信や啓発活動に携わる自分自身が、ダブルマイノリティの方々の苦悩についてまだまだ分かっていなかったと、胸が痛くなるような思いで観ていました。
上映後のアフタートークでは、監督にお越しいただき、映画監督になったきっかけや、本作に込めた思い、作品に関する補足的な説明やエピソードをご紹介いただき、その後は参加者との質疑応答の時間を設けました。ろうの方々も多数来場していて、中には質問をした方もおられました。聴者に対しては、手話通訳の方が日本語に通訳してくださいます。私は進行役として前方にいて、参加者の皆さんの様子が手に取るようにわかる場所にいました。とても印象的だったのは、質疑応答のやりとりのさなか、大きく頷く人がいたり、ろうの方々が生き生きとした表情を見せていたり、会場の温度が数度上がったのではと思うくらいの皆さんのパッションがあふれる光景でした。
知りたい、学びたい、という気持ちを持っている方が、そもそも参加してくれているので自然なことかもしれません。それでも今日は、コミュニケーションや文化の違いを体感し、お互いを尊重することの大切さを感じてくれた人がひとりでも増えたのではないか、その人たちが周りの人、一人でもいいからその思いを伝えてくれたらと、願わずにいられませんでした。ダイバーシティ&インクルージョンの理解や認識をさらに深めたい方に、「ジンジャーミルク」、お勧めします。
五十嵐ゆり