テーマ:「組織と個人の未来を共に考えるために」
開催:2024年11月30日(土)19:30~21:00(オンライン開催)
1.開催概要と目的
GEWELオープンフォーラムは、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を社会と組織の両面から考える年次イベントとして開催されており、今年で15回目。
2024年のテーマは「組織と個人の未来を共に考えるために」。
昨年の議題「D&Iのキャズムをどう超える?」を踏まえ、今年は“その超え方”を具体的に議論する形となった。
開会の挨拶では、小嶋代表理事が「D&I推進を一部の部署や担当者に任せるのではなく、すべての部門・職種に“主流化(Mainstreaming)”させることが次のステップ」と語り、
この日の目的を「ダイバーシティ専門家の活躍の場を、より多様な分野に広げるための対話」と位置づけた。
2.内容の概要
(1)基調セッション:
テーマ:「ジェンダー主流化」から「ダイバーシティ主流化」へ
- “ジェンダー主流化”とは、政策・企業活動・プログラムのすべてに性の視点を組み込む考え方。1995年の国連北京宣言で提唱された。
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近年ようやく日本でも企業においてこの考えが取り入れられ始めている。
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GEWELではこれをさらに広げ、「ダイバーシティ主流化(Diversity Mainstreaming)」を提唱。
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D&I推進室の専任業務にとどめず、営業・研究・製造・人事など全ての部門にD&Iを浸透させることが重要。
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各部門の“本来業務の中に多様性を組み込む”視点が求められる。
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「ダイバーシティを任せる部署ではなく、全員が担い手になること。
それが“主流化”の本質です。」
(2)企業事例報告:古野電気株式会社 D&I推進課長・楢崎由紀氏
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船舶用機器メーカーとして長く“男性社会”であった同社が、2024年にD&I推進課を新設。
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女性ワーキンググループの活動をもとに正式組織化し、社内の課題を可視化。
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楢嵜氏自身もGEWELの研修を受講し、D&Iを自らの言葉で説明できるようになったという。
「社員の数だけ価値観がある。会社と個人が“Win-Win”で続いていくためにD&Iが必要だと、腑に落ちました。」
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“働く目的”を「お金」だけでなく「挑戦」「幸福」「成長」など多様な報酬として考える発想が印象的。
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D&Iは“笑顔のため”だけではなく、組織の持続性と個人の成長を両立させる経営戦略であると語られた。
(3)事例紹介:
「もしダイバーシティ専門家がいたら止められたかもしれない」実例
稲葉理事が、広告・出版・製品開発など様々な分野で起きた“見落とされたバイアス”事例を紹介。
◆ 広告・メディア領域
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女性のみが家事・育児に疲弊する描写のCMや、男性=青/女性=ピンクのステレオタイプ構成。
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“マネル(Manel)”=男性だけの登壇パネル問題。
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出版業界でも男性偏重の取材(例:ブルータス「コーヒー特集」全員男性バリスタ)。
➡ D&I専門家が関与すれば「無意識の偏り」を検知・修正できたはず。
◆ 商品・研究開発領域
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女性服にポケットがなく、緊急時に不便(性差による機能格差)。
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自動車の衝突実験が男性ダミー人形中心 → 女性の致死率1.5倍。
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医療データが男性偏重 → 女性や有色人種への適用に問題。
➡ “多様な身体・生活者視点”を持つ専門家の参画が不可欠。
◆ 歴史・AI・倫理領域
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歴史や経済も男性中心で語られてきた(例:「アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か」)。
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AIが過去の偏見データを学習し、性差別的な画像生成を行う例。
➡ 「AIトレーナー」など新しい職種にもD&I視点が必要。
(4)コンプライアンス・ガバナンスの取り組み事例
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交通インフラ系企業では、コンプライアンス委員に必ずD&I有識者を含める仕組みを導入。
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LGBTQ・SOGIハラスメントへの理解を持つ専門家の関与が、職場の安全性を高める。
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“当事者”だけでなく、“知識を持つ有識者”が組織に入る意義が強調された。
(5)B Corp(ビーコープ)認証の紹介
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企業を「社会的・環境的に持続可能」かつ「多様性に開かれた」観点で評価する国際認証。
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海外では女性・マイノリティ比率などが重要指標。
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パタゴニア、サニーサイドアップなどが取得。
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“女性一人いれば多様性”ではなく、文化・出身・性の多様さを経営層に反映させることが真の多様性と指摘。
(6)グループディスカッション:
テーマ:「ダイバーシティ専門家をこんなところで活用できるのでは?」
3名程度のグループに分かれ、自由に意見交換。
聴講者からは次のような声が印象的だった。
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「商品企画や広告だけでなく、教育現場・地方行政にも専門家の目を入れたい」
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「AIやデータ活用の分野でD&Iチェックリストが必要」
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「D&Iを“広報・採用”の文脈だけで終わらせず、経営判断に直結させたい」
3.気づき・学び
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“D&I推進=部署の仕事”ではない
→ すべての部門・職種にダイバーシティ視点を組み込む「主流化」こそが次の段階。
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“専門家の存在”が社会のバイアスを減らす
→ 広告・研究・AI・経営など、あらゆる領域で「チェック役」としてのダイバーシティアドバイザーが求められている。
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“笑顔”だけではなく、“持続可能な成果”を生むD&I
→ 組織と個人がともに成長するための戦略的視点。
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“ジェンダー”から“ダイバーシティ”へ拡張する必要性
→ 性別だけでなく、年齢・国籍・健康・立場・価値観など、多層的な多様性を尊重する時代へ。
4.印象に残った言葉
「ダイバーシティ主流化とは、“誰かがやる”から“みんなで担う”への転換」
「笑顔のためだけじゃなく、未来のためにD&Iを入れる」
「当事者でなくても“気づける人”がいるだけで、社会は変わる」
5.まとめ
今回のフォーラムを通じて、D&Iの本質が「共感」ではなく「構造改革」であることを再認識した。
企業・自治体・教育など、あらゆる領域に“多様性を主流化する視点”を入れることで、
組織の持続性と個人の幸福が両立できるというメッセージが力強く響いた。
D&I推進の未来は、特定の担当者ではなく、一人ひとりの仕事の中に“多様性の視点”を持ち込むこと。
それこそが、今回のテーマ「組織と個人の未来を共に考える社会」への第一歩だと感じた。