イベントレポート:GEWELオープンフォーラム 2023

■開催概要

  • 開催日時:2023年12月17日(日)19:00~21:00(オンライン開催)

  • テーマ:”D&Iのキャズムってどう越える?”

「D&Iのキャズムとは何か?」

キャズム理論の紹介
D&I推進の5ステップ(理想形)
キャズムの原因(落とし穴)
乗り越えるために

  • 登壇者

小嶋 美代子(代表理事)
稲葉 哲治(理事)
山田 弘(副代表理事)
篠田 寛子(理事)
五十嵐 ゆり(理事)


1. 開会

GEWELが20年以上にわたって掲げてきた理念

「自分らしさと違いを活かしあう社会へ」

のもと、企業・地域社会へD&Iを広めてきた活動の歩みが紹介されました。


2. 既存理事による対談

「D&Iの変化とこれから」

● 小嶋 美代子(北海道)

  • GEWELの活動は、女性活躍から始まり、現在は社会全体の包摂へと拡大。

  • 欧米ではすでに「DE&I(Equity=公正)」が加わり、公平性への注目が進む。

  • 「アンコンシャス・バイアス」「心理的安全性」など、共通言語も広がった。

  • 今後の課題として、生成AIのジェンダーバイアスを懸念。

    人間のバイアスを拡張してしまうリスクがあり、D&Iの新たな壁になる可能性を指摘。

● 稲葉 哲治(東京)

  • 日本社会における課題として、「学ばなさ・変わらなさ」を強調。

    • コロナ禍を経ても働き方が元に戻り、変化が定着していない。

    • ジェンダーギャップ指数の改善が進まないのも「学びを止めている」ことの象徴。

  • しかしポジティブな変化もある。

    • サステナビリティを重視する企業がD&Iにも積極的。

    • 「ビジネスと人権」を意識する企業が増加。

    • 社会的責任と多様性の両輪を動かす動きが見られる。

● 山田 弘(神奈川)

  • 働き方・教育・リーダーシップの3点から変化を紹介。

    1. 働き方:男性育休の浸透により「性別役割分担」の意識変化が始まっている。

    2. 教育:不登校や個別最適化をめぐるオルタナティブ教育の広がり。

    3. リーダー像:「ボス」から「コーチ」への転換。

      部下を支配するのではなく、強みを伸ばす存在が求められる。

  • 映画『隣人X』やNHK Eテレの番組『虹クロ』など、

    社会の中で「多様性」を表現する文化的潮流が力強く広がっている。

● ディスカッション

  • 「学ばなさ」と「生成AIの偏り」は根っこが同じではないか――

    “既知のことしか学ばない”姿勢が共通している。

  • アンコンシャス・バイアスはなくならない。自覚し続ける力が重要。

  • D&Iの本質は「人だけの多様性」に留まらず、

    AI・動物・働き方など、**“人以外との共生”**にまで広がっている。


3. 新理事によるトーク

「D&Iに加えたい私の視点」

● 篠田 寛子(岐阜県)

  • 地方と中小企業の視点を重視。

  • 大企業・東京中心の“お手本モデル”に合わせるのではなく、

    **「地方ならではのD&I」「小規模だからこその柔軟性」**を活かすべき。

  • 本社の方針を押し付けられることが地方の課題。

    地域や組織文化に合った取り組みを認め合う必要がある。

● 五十嵐 ゆり(東京)

  • 「少数派支援」が「かわいそうな人を助ける運動」になっていないかを疑う。

  • 大切なのは、マジョリティの無自覚な“特権”に気づくこと

  • 「良いことをしている私たち」という上から目線を脱し、

    “人権”として対等に扱う姿勢が不可欠。

  • 地方では「うちには当事者がいない」「文化だから変えない」

    という抵抗が根強く、情報格差・ジェネレーションギャップが課題。

● 両者の共通テーマ

  • 「情報の偏り」「変化への抵抗」「終わった感」

    → “わからない”ことを“ない”と決めつける風土をどう変えるか。

  • 「文化だから」で思考停止するのではなく、

    その文化の中で“どう変われるか”を考える視点が求められる。


4. メインセッション

「D&Iのキャズムとは何か?」

● キャズム理論の紹介

  • CHASM(キャズム)=断絶・溝。

    新しい概念や技術が社会に普及する際に越えねばならない溝。

  • D&Iも同じ。担当者や一部の熱心な層が頑張っても、

    経営層や全社に広がらず“止まってしまう”構造がある。

● D&I推進の5ステップ(理想形)

  1. 担当者の“目覚め”

  2. 推進部署の賛同

  3. 経営層の理解と支援

  4. 全社的な共通認識

  5. 社外への発信・社会的価値化

→ 現実は、③〜④の間に「キャズム(断絶)」がある。

● キャズムの原因(落とし穴)

  • 「忙しい」「成果が見えない」と後回しにされる

  • D&Iは“めんどう”という認識(コミュニケーションコスト)

  • 経営者が“知ってるつもり”で止まる

  • 感情(フィール)を語れず思考偏重

  • 「日本(自社)は特別」「他社は他社」といった逃げ口上

  • 担当者の異動・入れ替わりによる継続性の欠如

  • 熱意ある担当者が“浮く”構造

  • “なぜ今やるのか”の共感が共有されていない

● 乗り越えるために

  • D&Iを「プロジェクト」ではなく「文化づくり」として捉える。

  • 推進担当者一人に依存せず、“アーリーマジョリティ層(共感者)”を増やす。

  • 経営層にも“フィール”を促すことで、

    「人としての共感」から組織文化を変えていく。


5. 気づきと学び

  • D&Iは終わったテーマではなく、変化を続ける社会課題。

  • 「キャズム=担当者の孤立」をどう防ぐかが、今後の推進の鍵。

  • 地方や中小企業の現場でも、**“自分たちの形のD&I”**を探ることが必要。

  • マジョリティの特権や無自覚を認め、他者理解を“自分ごと”に変える力が求められる。

  • 結局、D&Iを進めるのは制度でも仕組みでもなく、

    **“対話と想像力”**であると実感した。


6. まとめ

GEWELのオープンフォーラムは、D&Iを“語る”だけでなく、

“体感しながら考える”対話の場であることを強く感じた。

今回の「キャズム」というキーワードは、

D&Iの“広がらない理由”を整理し、次の行動を考える大きなヒントとなった。

「変わらない」ことを嘆くのではなく、

「どう変わっていくか」を対話で描いていく。

そのための仲間づくり・共感づくりの重要性を改めて認識した。

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