概要
今年のオープンフォーラムのテーマは「D&Iのブレイクスルー」。
そこから派生するテーマとして「発達障害」に焦点を当て、より個人や家庭の視点に踏み込んだ対話を目的としている。
テーマは、1300人のアンケート結果から見えてきた『発達障害の生きにくさや、育てにくさの理由はこれだった!』
ゲストに畠中 直美さん(一般社団法人チャレンジドライフ代表)をお迎えして、発達障害のある人・家族・支援者・企業担当者など、多様な立場の参加者がオンラインで集い、アンケート結果をもとに「社会の理解」と「生きやすさ」について意見を交わした。
2021年12月18日 オンライン開催
ゲストトーク:「発達障害から見える生きづらさ」(畠中直美さん)
(1)自己紹介と活動の原点
畠中さんは、3人の子どもを育てる母親であり、長男が自閉症と知的障がいを持っている。
この経験から「障がい者とそうでない人の社会がいかに分断されているか」を痛感。
「共に生きる社会をつくる」思いで一般社団法人チャレンジドライフを設立。
名称には「挑戦する人生」という意味が込められていたが、近年は“挑戦”よりも“共生”を重視する方向に変化しているという。
(2)発達障害の基本的理解
発達障害は、以下の3つの特性群の総称であり、人によって重なり方が異なる。
分類 |
主な特徴 |
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自閉スペクトラム症(ASD) |
コミュニケーションが難しい、強いこだわり、感覚過敏など |
注意欠如・多動症(ADHD) |
集中力の維持が難しい、衝動性、忘れ物や遅刻の多さ |
学習障害(LD) |
読み書き・計算・運動協調など特定領域での著しい困難 |
畠中さんは、「発達障害は“ある・ない”ではなく“グラデーション”のようなもの」と述べ、“障害”よりも「環境との相性や適応のしやすさ」が問題の本質であると強調した。
(3)1,300名アンケートから見えた社会のギャップ
チャレンジドライフが実施した全国アンケート(回答者1,300名)から、次のような傾向が明らかになった。
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回答者の68.8%が非当事者(本人・家族ではない)
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発達障害の認知度は**99.8%**と非常に高い
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しかし、当事者家族の約90%が「理解されていない」と感じている
→ 「知っている」と「理解している」の間に大きなギャップが存在する。
(4)見えてきた3つのポイント
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困りごとは誰にでも共通する
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「片付けが苦手」「切り替えが難しい」など、発達障害の有無にかかわらず多くの人が共感。
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ただし、「極端な不器用さ」「読み書き・計算の苦手さ」は当事者に特有の傾向。
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誤解や偏見が根強い
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幼稚園での入園拒否、ICT配慮(タブレット使用)の却下など、社会的な壁が依然として存在。
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「親のしつけの問題」「わがまま」と誤解されるケースが多く、保護者の孤立を深めている。
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配慮は“特別な支援”ではなく“共通の生きやすさ”
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発達障害のある人が使うツール(チェックリスト・スケジュールアプリなど)は、誰にとっても役立つ“生活を助ける知恵”として広く活用できる。
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「発達障害者に優しい社会」は「全員に優しい社会」である。
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(5)考察
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「努力すればできる」と誤解されることが、当事者を最も苦しめている。
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見えにくい障害ほど、「甘え」「ずるい」と誤解されやすい。
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当事者は「努力ではカバーできない特性」を抱えており、社会側の理解と配慮が不可欠である。
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発達障害の人が身につけた“工夫”や“適応スキル”を社会全体の知恵として共有していくことが、インクルージョン推進の鍵である。
4. 実践紹介:知恵を社会に活かす取り組み
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保護者が日常の中で培った「工夫」や「対処法」を400以上集約し、
玩具メーカーピープル社と共同研究を実施中。 -
発達特性をもつ子どもの視点を生かした製品開発を通して、
「共に生きる社会」の具現化を目指している。
5. 参加者交流セッション
ブレイクアウトルームに分かれ、参加者同士で感じたことを共有。
印象的だった声:
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「明るく前向きな発信に救われた。これまでの療育現場は暗い雰囲気だった。」
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「自分の子どもの困りごとが“特別ではない”と知り、気持ちが軽くなった。」
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「企業でも配慮の仕組み化(口頭指示を文字化、チェックリスト化)が必要。」
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「“障害”より“特性”として捉える言葉選びが重要。」
6. 所感
発達障害を「支援が必要な人」として区分するのではなく、
「多様な特性のひとつ」として共に生きる視点の大切さを改めて感じた。
また、当事者の工夫や経験が“社会全体の学び”に転換できるという考え方は、
ダイバーシティ推進そのものの本質にも通じると感じた。
今後は、企業や教育現場でも「特性理解 × 環境整備」を進めることが求められる。
発達障害をきっかけに、“誰もが働きやすく学びやすい社会”を目指す重要性を再認識した。
7. まとめ
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発達障害の理解には、“知識”よりも“共感と仕組み”が必要。
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支援の対象ではなく、「共に学び合う仲間」としての視点が鍵。
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「違いを認めること」が、すべての人の生きやすさにつながる。